アガリスクエンターテイメント第26回公演『わが家の最終的解決』、1月29日をもって全9ステージを終えました。
ご来場の皆様、まことにありがとうございました。
無事に、と言えるのかどうか危うい体調不良っぷりでしたが、それでもとても素敵で最高な公演になりました。
こんなに評判のいい公演は出たことないんじゃないかってくらいの好評の嵐で、
稽古中の手応えを遥かに上回るお褒めの言葉の数々を頂戴することが出来ました。
アガリスクと言えば『ナイゲン』だよね、
がついに塗り変わったんじゃないかと思っています。
塗り変わったというかダブルスタンダードになったというか。
それぐらい、今のアガリスクのまさに集大成・総決算な作品でした。
出し惜しみはしてないよ。
◆ハンス:斉藤コータ
彼抜きに今回のわが家を語ることは不可能だし、エヴァを語るにしてもそうです。
エヴァ熊谷はハンス斉藤とともに成長していけました。
そして、作品は彼が体重を乗せた分だけ重く・深く・そして遠くまで響くことが出来ました。
彼の俳優としての真髄を見せつけられました。
彼の新たな一面を見れて、すごく刺激になったし、彼がぼろぼろと流す涙には衝撃を感じざるを得なかったし、
同時になんて愛しい恋人だろうと思いました(その瞬間というのはこの物語で最も最悪なシチュエーションなんだけど…笑)
ハンスとの追加シーンで特に楽しかったのはイチャイチャしてるシーンです。
(後ろのアルフレッドはイチャこきにズッこけてる)
稽古の段階で、コータくんとわたしならばどんな恋人にしましょうとなった時に、
普段ふざけてキャッキャしてる感じがいいねとなったのです。
なのでボディタッチが大目になりましたね。
キス(しようとする)シーンとか。
ひたすら楽しかった。
あと、ボディタッチもまぁそうだけど、
二人の関係性。
対等な二人にしようという話になって、というのは初演のエヴァはどこかハンスより強く優勢な彼女だったんですよね。
ただただ「主人公を振り回す恋人」という役割として存在してたってのもあるけれど。
だけど、今回のエヴァは違った。
根が頑固なところは相変わらずだけれど、
恋人の前ではちょっと弱くもなっちゃうし、嫉妬しちゃうし、自信なくすし、優しくもあるし、すぐにデレデレしちゃうし。
対等に喧嘩するし。
それはやっぱり、コータくんとわたしだから作り上げることの出来た恋人像だと自負しているし、
手前味噌ながらかわいらしいカップルになったなと思っています。
お互い本当に好きなんだねぇ、っていう奴ら。
本番入ってから、ちょっとずつ新しいアクトを増やしてくれて、エヴァのことを想うその視線や指先に、エヴァはときめいていたのでした。
色々あるけど、秘密。
❤︎❤︎❤︎
さて、ハンスという役についてもう少し書こうかと。
この物語、喜劇でありながら非常に悲劇的なストーリーで進行します。
(エピローグの大オチ、アルフレッドの「またかーー!!」すらも同様に喜劇で悲劇)
それはもちろん、戦時中だったこと、ドイツ国がユダヤ人差別を徹底的に図ったことが災いの土台にあるんですが…
もう一つはハンス=シュタイナーの人となり。
彼の優しくてお人好しで愛情深くて、なのに不器用でおっちょこちょいなところが結局エヴァにとって・ユダヤ人家族にとって残酷だったなと思うのです。
事の発端。
まず二人が出会ってしまった。
(詳しくは台本付パンフレットに収録の「エピソード0」をご参照のこと。絶賛発売中!)
そして二人は惹かれあってしまった。
この時にはお互い知らない。
一方がユダヤ人で、一方がゲシュタポであることを。
しかし、ある日ハンスはエヴァがユダヤ人であることを知ってしまう。
ここ。
ここなんですよ。
もしハンスがここで諦めていたら。
ユダヤ人だとバレて泣く泣く離れようとするエヴァを、そのまま見送っていたら。
二人にこんな悲しい結末は訪れなかった。
でも彼は立ち去ろうとする彼女の腕を掴んだ。
自らがゲシュタポでありながら、そしてそれを隠しながらユダヤ人の女性と交際しようとしてしまった。
ここがホント罪深いと感じていて。
そしてそれを、自分から「実はね…」と説明出来ていたら。。
でもハンスはずっと言えなくて、用意した出生証明書のことも言えなくて、ついにハンスはヨーゼフによってバラされてしまう。
あの窮地にあって「ダメや…」と思いながらプロポーズをする。
もうぜったい無理なのに。
それでもどうしても自分の職業を言えなかったのは、ひとえにエヴァと別れたくなかったから。
一緒にいたかったから。
とても子どもっぽい。
呆れるほどに。
(もちろん、あの匿ってる状況で「別れよう」なんて言えないし、彼女を街にほっぽり出すわけにもいかないし、という事情もあるけれどね)
でも、エヴァはハンスのそういったところが愛しくてたまらなかったし、
だからこそ本当に残酷だと思います。
でも、残酷ではあったけれど、
二人がここまで愛し合ってお互いを死なせたくないというラインをどうにかこうにかクリアしたからこそ、
あの家から脱出・亡命がかなったわけで。
だから恋愛としてはもう最悪の結末だったけれど、
人間、命あっての物種。
生き延びることが出来たのだから、当然二人のそこまでの足跡だって無駄ではなく、「出会わなければよかった」とはならないのです。
もしかしたら、そう感じるくらい胸を痛めた瞬間は、其の後何度かあったろうと思われますが。
結局、ハンスの純粋な残酷さが、要するにエヴァへの愛が彼女を救うことになったのです。
これは推測ですが、ハンスはその後心から恋愛をすることはなかったんじゃないかな、と。
オットー=フランクのように再び愛しい人を見つけられたかもしれないけど、きっと罪の意識は消えなかったんじゃないかしら…と思います。
エヴァだって、エルサレムで愛する人を見つけて結婚したけれど、その学者のことをハンス以上に愛してはなかったと思います。
きっと子どもも生まれたし、愛ある家庭だったとは思いますけどね。
あの短期間で本の出版に成功しているし、そこらへんも夫が絡んでるのかな、なとど推測してみたり。
ちょっと最後にネガティブっぽいことを書きましたが、これ別に全然ネガティブじゃなくて、
「愛故に残酷」だなと、永くこういった恋愛悲劇で腐るほど耳にするフレーズですが、
とにかく愛故に残酷、人が人を想うがゆえに傷つけてしまった。
それほどまでに愛していたんだよ、と言いたいだけの熊谷でした。
◆エヴァ再び
さてハンスの項目でだいぶ言及しましたが、自身の役、エヴァ=オッペンハイマーについて。
再演で同じ役を演じる経験は2度め。
アガリスクの『時をかける稽古場』と『時をかける稽古場2.0』でのクマガイ。
でもこれは、役名こそ同じだけれど役割がどどんと変わったのでもはや同じ役なのかどうか。
そして今回のエヴァ。
今度こそ紛れもなく同じ役です。
そもそもわたしはまたエヴァを演じさせてもらえるのか、そこから不安でした。
これは初演のとき。
天真爛漫で奔放で気が強くて、ハンスを振り回す厄介者な彼女。
再演が決まったとき、自分がエヴァを再びやれるなら、今度は観た人から愛されるエヴァになろう、そのことを強く誓いました。
だから、脚本レベルでも演出でも「グイグイいかないエヴァ」を心がけていました。
エヴァは、この物語においてキーパーソンではありますが、派手に何かを仕掛けることはしないんです。
エヴァとしてはこの状況、「ユダヤ人として迫害されるも、恋人に匿ってもらって同棲してる」というのが、彼女なりに完成してる日常なわけなんですよね。
無論、窮屈で息苦しい毎日です。
でも恋人と一緒にいれて、この戦争をどうにか乗り越えれば…と夢見てるわけです。
危険が及んだ家族のことも無理言って匿ってもらうことに成功し、不安要素は減っていきます。
だから、エヴァが活躍するのは1話まで。
あとは状況に流されるだけなんです(2話でルドルフに家族を紹介する大失態は犯しますが)
エヴァは、強い目的を持ってこの物語に居るわけではないのです。
もちろん、「ハンスと一緒になりたい」という大きな目標はあります。
だけど、そのために自らグイグイ行動するようなことはない。
だから、「どう居るか」がとにかく大切で。
ハンスがどうしても一緒にいたい、愛してる女性だという説得力がないと、と思ってました。
細かく言えば「このセリフをどう言うか」という演技の解釈はありますが、
それよりも、全編を通して、物語のその前とその後のことも考えながら「どう居るか・どう在るか」がエヴァという役を決定づけると思いました。
そのために、とにかく恋をしました。
錯覚でも盲信でもいい、とにかく恋をしていました。
たまらなく幸せな2ヶ月でした。
どうやって恋をしたかって?
それを聞くのは野暮ってもんですわよ♡
このエヴァとハンスの恋心がお客様に染みるほどに、作品が心にも沁みていくと信じて。
おでんで言ったら具じゃなくて出汁の気持ちでお芝居してました。
やっぱり、「大根がうまい」だの「がんもがよかった」という意見が多いですが、時々出汁を褒めるツイートなんかも見れて嬉しかったです!
ちなみに好きなおでんの具はたまごとちくわぶと白滝です。
辛子はいりません。
もっとほかに書きたいことあるんですが、
すでにかなりの長文なのでいったんこれにて。
最後に二人で撮った写真を置いておきます。
ハンス、ありがとう。
さようなら。
続く(かもね)
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